タイトル

(ちょろいもんだね)
メイは一人言ちた。彼女がいるのは、然る実業家の邸宅である。通常の感覚だと、この家は豪邸と呼ばれる部類に入るだろう。
まだまだ世界の情勢安定しているとは言い難い中、このような邸宅に住めるというのは相当の資産を保有していることを意味する。同時に、かなり際どい取引を行っていることも。
それはメイが所属する快賊団のような、所謂「義賊」のターゲットになるには十分な要素を備えていると言える。
警察機構などに言わせれば彼らも間違いなく犯罪者と分類されるのだが、世間からの認知としては好意的な目で見られる場合が多いというのが事実である。
かなりの広さと豪華さを兼ね備えた建物は真夜中にも独特の荘厳な雰囲気を作り出していた。そんな中を影のように音もなく動く。
普段のピコピコシューズからは想像もできない動き。長い間快賊として活動してきたメイにとって、この程度の所作は呼吸と同じような感覚で行える。
何のトラップに引っかかることもなく目的の部屋に到達する。事前に調べていた通りの間取り。宝飾類の位置。何の問題も無かった。
ただ一点予想外だったのは、むせ返るような香水の香り。
(うえー、ヤな匂いー)
この程度は我慢しなければならない。メイは顔をしかめながら目的の物品を素早く回収する。作業を終え退路に向かおうとした瞬間、目眩を感じた。
「うっ」
地面が斜めに傾き、一気に意識が遠のく。自分が倒れたのだと気がついたときには既に意識のほとんどは闇に沈んでいた。
気が付くと周りの環境は一変していた。周りを見回して状況を確認してみる。
どうやら石造りの部屋のようである。何も見当たらない。殺風景といってもいい。窓もなく、ドアが一つだけ付いている。
まだ身体の痺れが取れない。どうやら先程の香水に芳香性の薬が混じっていたらしいと当たりをつける。
とりあえず自分はどうなったのか、どのような状況に置かれているのか、それを知りたかったが、どうやらあまりいい状況にはおかれていないらしいということだけはすぐに分かった。自分が忍び込んだ家の主人が姿を見せたからである。
「やぁどうもどうも。ご機嫌はいかが?」
(表面的には)にこやかな笑顔で主人が話しかけてくる。
「あんまりいい寝心地じゃなかったかな」
とにかく身体を回復させるのが先だと判断したメイは主人との会話を選択した。
「おや、それは失礼を。」
そんなメイの判断を知ってか知らずか、わざとらしく首をすくめ、主人は続ける。
「いやはやしかし、盗人がこんなかわいらしいお嬢さんだとは思いもよらなかった。」
品定めをするかのようなまとわり付く主人の目線に、メイの背中を悪寒が走り抜ける。
「私の家に忍び込むぐらいの方ですから、覚悟はできておられるのでしょうな。」
「何の覚悟?」
とぼけたように聞き返す。
主人は首をすくめながら答えた。
「無論、死ぬ覚悟ですよ。」
と言いながらも、そんな気は更々ないように主人は続ける。
「ただねぇ…こんなご時世ですからねぇ。貴女ほどの器量の方をそのまま消すには実に惜しい。」
「何が言いたいの?」
「それは追々…。これから嫌というほど分かりますよ。」
くっくっくっ…と陰湿な笑いをこぼしながら主人は手で合図をする。
途端に背後からニュトニュト…と粘液が流れるような音が響く。なんとか上体を起こしそちらを見やると、先程まで何もなかったはずのそこに無数の触手を持つ軟体が蠢いていた。その生物らしきものはなんとも形容しがたい音を立てながら、ゆっくりと自分の方に向かってくる。
「ひっ」
メイの顔色が一気に青ざめる。グロテスクと言ってもいいその造型が生理的に受け付けなかったからである。
「おや、顔色が悪いですよ? お嬢さん?」
主人がニヤニヤとした笑いを貼りつけ、尋ねてきた。明らかにメイが生理的な嫌悪を感じていることを楽しんでいる。
ゆっくりと、軟体が身体にのし掛かってくる。身体が痺れて抵抗できないことが恐怖感を一層煽った。
「や…やだっ。」
ジュル…ジュル…
軟体生物はその触手をメイの身体の上に這わせてくる。まるで身体を探っているかのようだ。
身体が動かないせいで触覚がいつもより鋭敏になっているメイには、服越しにでも軟体の触手の感触、重みがしっかりと感じ取れた。触手は服の隙間を見つけて潜り込んでくる。
「ひぁ」
思わず声が上がる。しかし、想像していたより柔らかく、触れた感触も気持ちの悪いものではない。それが逆に恐ろしい。嫌悪感があった方がまだ耐えられることもある。
「ぅ…」
なんとか触手から逃れたいのだが、身体は一向に反応してくれなかった。
「中々素敵な感触でしょう? 気持ちが良いのでは?」
「こんなの…なんてことないよ」
メイが答える。体中を触手に撫で回されていたが、大半は服の上からなのでまだ答える余裕があるようだ。
「まぁそうでしょうな。まだまだほんの序の口だ。今感じられたら、長丁場はもたない」
「え?」
呟きに近いその言葉を、メイは聞き取ることができなかった。
「ま…体験してみれば分かります」
その声が合図であったわけでもないだろうが、触手の動きが変化した。
触手の内側にびっしりと生えた繊毛が振動し始めたのだ。今度は服の上からでも十分に刺激が伝わってくる。
直接肌に触れている部分の刺激は先程までとは比べ物にならない。触手はどんどん服の中に潜り込み、肌と触れ合う面積を増やし、生暖かい液体がメイの柔肌に塗りこんでいった。腰や下腹部、太もも、首筋などを触手がヌメヌメと這い回る。それに伴ない性的な快感が加速的に増加した。
「んぁっ! ちょ…やめ…て…よ…!」
「んん〜。いい声ですねぇ。素晴らしい。先程よりも随分と気持ちよさそうじゃあないですか」
「そ…そんなこと…ない!」
この手の責めには耐性のないメイは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「まぁまぁ…そんなに恥ずかしがらず…。これからもっと良くなりますから」
こんなやり取りをしている間に触手が乳房に到達する。そこが敏感であると知っているのか、触手がそこを集中的に責めだす。分泌された粘液と触手の繊毛の細動がぬとぬとと絡み合い、胸の膨らみと、その中央にある突起を撫で回した。
「はぅっ!?」
繊毛が乳房を一撫でする毎に快感が込み上げる。先端の乳頭も柔らかな触手が包み込み、絶え間なく撫で回す。
メイも自分の身体を触ってみたことはあった。だがそれは快感を得るためのものではなく、単なる好奇心からだった。しかし今受けている刺激はそれとは全く異質なものだった。これほどの快感を経験するのは初めてといっていい。
さらに、触手はタイツの中を這いずり回った。
ふとももを撫で回されるだけで身体が反応する。この頃には、メイの身体には完全に火がついてしまっていた。
そして頃合いを見計らうかのように、何本もの触手が最も敏感な部分を責めだした。繊毛の微振動で入口や突起を執拗に撫で回す。辺りにヌチュヌチュと卑猥な音が響いた。
「ああっ! ひぃっ!」
触手がメイにオーガズムを与えることはなかった。繊毛と粘液で全身を、特に性感帯をゆっくりといたぶるように愛撫し、しかし達するほどの激しい刺激は決して加えない。生殺しとも言える状態が延々と続く。
どれほどの時間が経っただろうか。主人が不意にメイに声をかけた。
「どうですか? この触手の味は? 楽しんでいただけてますかな?」
「お…お願ひ…も、もう…」
「もう? もう、なんですか?」
「やめ…てぇ!」
「何を仰る。まだまだこれからではありませんか」
その言葉を待っていたかよとばかりに、主人はクスクスとドス黒い表情で笑った。
「…!」
触手が動きを変える度にメイの身体は幾度となく仰け反った。徐々に身体の自由が戻ってきたのだろう。だがメイにはそのことに意識を向ける余裕もなくなっていた。
「どこまで耐えられるものか…なるべく頑張って頂かないと」
主人の声が絶望的に響く。
「い…いやぁぁぁ!」
初めて味わう責め苦、果てることない快感地獄はゆっくりと確実にメイの理性を壊していった。
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